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第三話「嘘と嫉妬と、涙と接吻」 (2)



投下。 どーん!(詳細は(3)へ)






嘘と嫉妬と、涙と接吻



結局答えの出なかった問題は、翌朝、着替えを済ませた頃に解けた。
担任の先生方の見回りが始まる前に、保健室代わりの一人部屋のドアがノックされた。
先生の内の誰かだろうと思い込んでドアを開けたせいで、そこに着替え前のスウェット姿の女子生徒が立っていることに多少驚いた。

「あっ、先生」
「どうしたの?こんな朝から」

その女子生徒―――真野さんは、どことなく慌てているような不安そうな顔をしていて。
尋ねながら、既に嫌な予感がしていた。

「なんか、ナツが具合悪いみたいで・・・」
「ナツって・・・黒木さんが?」

自分で確かめるように名前を口にした瞬間、ドクンと鼓動が鳴った。

「うん、風邪引いたんだと思うんだけど」
「分かったわ、行きましょう」

救護バッグを手にして、すぐに真野さんと一緒に部屋を出た。
駆け出したい気持ちをグッと堪えて、努めて冷静に足早に彼女たちの部屋を目指す。

「いつから具合悪いか分かる?」
「昨日は、ナツだけ先にお風呂出ちゃって、わたし達が戻った時にはもう寝てて。それなのに、今朝はなかなか起きてこないからみんなで起こそうとしたら、もう」

廊下で会ったときにも、きっと。

『湯冷めしないように、気を付けなさい』
『うん、じゃあね』

あの、指先がじんわりと麻痺したような違和感。
とても単純なこと。ただ、温度が違いすぎただけ。
私の手がいつもより冷たかったわけじゃない。触れた対象が、いつもより熱かった。
ただそれだけのことに、気付けなかった。
たとえ彼女自身も気付いていなかったとしても、兆候はいくらでもあったのに。
彼女の様子がおかしかったことを思い出していると、「あ」と真野さんも何か思い出したようだった。

「そういえば、昨日の夕飯、あんまり食べなかった。大体なんでも食べるのに、みんなに『あげる』って」
「――――――」

私は、彼女のことを彼女以上に分かっているつもりだった。

『だったら、好き嫌いも減らしなさい』

私は、彼女のことを、あまりに知らない。



彼女が目を覚ましたのは、お昼時を過ぎた頃だった。

「―――・・・・・・?」
「お目覚め?随分とよく眠ってたわね」
「・・・おは・・あ・・・?」

熱と元々の寝起きの悪さも相まって、彼女は開ききらない目でぼおっと私を見つめた。

「あれ、なんで・・・せんせ・・・?」
「一応自分の足でこの部屋まで来たのに、覚えてないのね」
「え・・・?ここ・・・?」

ゆっくりと部屋を見回すと、彼女の額から濡れタオルが落ちた。
それを拾って水を張った桶に掛けながら、やはりまだ状況を理解できていない彼女に説明をする。

「私の部屋よ。あなたは風邪を引いたの」
「風邪・・・」

確かめるように呟いて、タオルの乗っていた額に触れると、あぁ、と溜め息に似た息を吐いた。

「どーりで・・・、お風呂熱いなぁって思ったんだ」
「まったく、なんて暢気なの」
「へへ」

ふにゃりと効果音でも付きそうなゆるい笑みを浮かべる頬に、そっと手を添える。
まだ、熱い。
あのときも、こうしてちゃんと触れていればよかった。

「何かあったら私のところに来なさいって、言ったでしょう?」

本人に自覚がないのだから仕方がないことだと分かってる。
なのに口にしてしまったのは、自分への言い訳と何に対してでもない嫉妬。
私だって人間なのだから、言われなければ他人の身体の異常になんて気付けない。
それでも、"彼女の"異常にだけは真っ先に気付きたかった自分が居たのだ。

「・・・ごめんなさい」

理不尽なことを言われていると分かっていないのか、泣きそうな目をして彼女は謝った。

「桶の水、換えてくるわね」

少しの罪悪感と大人気の無さを覚えて、頭を冷やしてこようと名残惜しく彼女から手を離す。
そのとき、何か聞こえた気がしたかと思ったら30センチと離れずにその手を掴まれた。

「黒木さん?」
「まって、けほっ、いかないで・・・っ」

咳き込みながらも、彼女は反対側の腕を支えに身体を起こそうとしていた。
風邪を引いたときに感じる独特の寂しさのせいだろうか。その不安そうな顔は、いつもより幼く見える。

「部屋の洗面所に行くだけよ。すぐに戻ってくるわ」
「いいからっ、ここに、いて?」
「でも、ちゃんとタオルを冷やさないと・・・」
「先生の手で・・・ッ、手が、いい・・・」

頬を上気させて、懇願と言っても差し支えないほど、彼女は必死だった。
掴んだ手も、決して強くはないけれど、離すまいと震えて。

「だからおねがい・・・行かないで・・・」

指先から、吐息から、視線から。
私にまで、熱がうつる。

「―――私の手は、そこまで冷たくないわよ?」

掴まれていた手を震える手と繋ぐと、彼女は一瞬気の抜けた表情をして、そして目を細めた。

「うん、それでもいい」
「分かったから、ちゃんと寝なさい」

再び彼女をゆっくりと寝かせ、肩まで布団をかける。
はみ出していた腕も入れさせてから、彼女の前髪を上げて額に手を置いた。

「気持ちぃ・・・」
「甘えん坊なんだから」
「そう、かも・・・」

意識を失う様に目を閉じた彼女は、再び深い眠りに落ちた。



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2010年12月18日 | 保健室シリーズ | コメント 0件 | トラックバック 0件 | トップ

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