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第三話「嘘と嫉妬と、涙と接吻」 (3)

わー!アップできなかったごめんなさーい!!
お仕事から帰ってこれなかっただけです!この話数は全部できてます!
チェックとか諸々で分けて投稿してるだけなんだ!
でも明日も何時に帰ってこれるか分からないし、(2)は短いので今日は連投しまっしゅ。

明日(土曜)も帰ってきたらアップするよ・・・!それでとりあえず最後だよ・・・!お待ちを!








嘘と嫉妬と、涙と接吻



早くも旅行三日目の朝。
彼女と旅館に残る私は、他の先生方と今日の事や黒木さんについての最終確認をして、班行動用のタクシーを見送った。
今朝はまだ目を覚ましていない彼女を部屋に残してきたので、戻る足が自然と速くなる。
昨日、あの後もう一度起きた時に飲ませた薬が効いていればいいけれど。半ば無理矢理だったけどお粥も食べられたから、悪化することはないだろう。
ただ、寝ているときに掻いていた汗で身体が冷えているかもしれない。今は場所が場所だから。
かと言って、暖房を無闇に強くすると今度は喉が―――。

「・・・・・・」

速度が次第に落ちて、やがて完全に足を止め、頭を抱えた。
いくらなんでも、過保護すぎる。
言っても、ただの風邪なのだ。ちゃんと休めばすぐに治る。
養護教諭が、生徒一人風邪を引いたぐらいでここまで動揺してたら身が持たない。

(まぁ、“生徒”として見てないから問題なんだけど)

それにしたって、今日の、いや昨日からの私は、自分でも思うほどおかしい。
彼女を過剰に気にしたり、彼女が体調を崩したと聞いただけで取り乱しかけたり、彼女に詮無いことを言ったり。

「・・・・・・、」

あぁ、たぶん、私はもうずっとおかしかったのかもしれない。
相手に何かを求めることがなかった私が、自ら彼女を好きになった時点で。
それなりに自覚はあるつもりだった。想像していたよりも、彼女への好意が膨らんできていることを。
だけど、知らないうちにその"自覚"をも超えていたらしい。冷静さを失って、他の事が考えられなくなるぐらい。
そう思ったら、無性に笑いが込み上げてきた。
―――早く、彼女の所へ戻ろう。



一度部屋の前で軽く深呼吸をしてからドアを開け、更に部屋を仕切る襖を開くと、病人は既に起きていた。
寝間着姿で対面の窓際に立った彼女は、私に気付かず背を向けたまま外を見ている。
まだ寝ているかもしれないと思いはしたが、別段意図せず静かに部屋に入ってしまったからだろう。

(大人しく寝ていることもできないんだから)

音にならない溜め息を吐いて、今度は意識して足音を忍ばせて近付く。
そして、冷えた彼女の身体を後ろからそっと抱きしめた。

「ダメでしょ、ちゃんと寝てないと。こんな寒いところに立ってたら治らないわよ?」

室内と外の温度差で曇った窓が、彼女の正面部分だけ拭われていた。
何を見ていたのかと覗くと、先程タクシーが雪の上に付けた轍の跡が交錯する旅館の玄関先を見下ろせた。

「みんなが出かけて寂しいの?でも、真野さんたちは心配して―――」

慰めようと彼女の顔を見て、言葉が途切れた。

「・・・ぁ」

見開いた目で私を見る彼女は、今この瞬間にも、泣きだしそうで。
子供みたいな泣き方とはかけ離れた、とても悲しそうな瞳をして。
―――泣かせたくない、と瞬間思った。
でも、何を言ったらいいのか、分からなかった。
何をしてあげたらいいのか、誰かに教えて欲しかった。

「・・・・・・っ!」

声も出せず動くこともできないでいるうちに、張り詰めた糸が切れたように、不意に彼女が表情を崩して抱きついてきた。
そこでようやく時間の流れを取り戻し、彼女の身体に腕を回す。

「どうしたの?どこか、気持ち悪い?」

そんなことで泣いているのではないと分かっていながら、そんなことしか言えなかった。
彼女は何度も首を横に振って、ぎゅうっと抱きつく腕に力を込めた。
苦しい、はずなのに。自分よりも彼女の方がよっぽど苦しそうに見えるのは錯覚なのだろうか。

「先生が、いなくなったかとおもった」

やっと紡いだ言葉は、喉の奥から絞り出したように小さく。聞いている方が呼吸を奪われそう。

「病人を置いて出かけるはずないでしょう?」

落ち着かせるために優しく声を掛けたけれど、しがみついた腕が弛む様子はない。
昨夜、必死に私を引きとめたことといい、今の彼女は極端に一人になるのを嫌がっている。
むしろ、怖がっている、と言った方が正しいのかもしれない。
だってこんなに、震えている。

「大丈夫よ。私はちゃんとここに居るでしょ?どこにも行かないわ」

服を濡らす涙は、外の空気よりも冷たそうで。もう泣かないでほしいと、切ないほどに願った。
何度も頭を撫でて宥めているうちに、次第に彼女の肩から力が抜けていく。
様子を確かめようと少し身体を離そうとすると、存外あっさりと彼女も手を離した。

「落ち着いた?」

顔を覗き込むと、目を赤くさせながらもこくりと頷いたので安堵の息を洩らした。

「ごめん、なさい・・・」

だけど、まだどこか危なげな雰囲気が残っている。
口を開きかけたけれど、言葉を発さずに閉ざし、代わりに彼女の目尻を親指でぐいっと強く拭った。

「具合はどう?」
「ん・・・、だいじょぶ・・・」
「じゃぁ、悪くならないうちに布団に入りなさい」

大人しくなった背中を押して布団に向かわせ、窓辺と部屋を区切る障子を閉じる。

「あぁ、よかったら身体拭いてあげるわよ?昨夜、結構汗掻いてたでしょう?」
「え?」

ちょっと待ってて、と彼女の返答も聞かずに、私は桶を持って洗面所へ逃げ込んだ。
温くなった水を捨て、蛇口を捻る。
お湯が流れ出すと同時に、私の口からも、知らずに溜まっていた息が吐き出された。

「・・・・・・――――」

落ち着くべきは、自分も同じだった。
彼女を宥めている間、反比例して、正直焦っていた。
“泣かせる”ことはあっても、“泣かれる”ことはなかったから。
理由の分からない涙は、ひたすらに透明で、何も見えない。
『私が居なくなったと思った』?病人でなくとも、生徒を残していくわけがないのに。
そこに考えが至らなかったのだとしても、いつもの彼女なら照れ隠しに怒りだしたに違いない。
不安だったことなど、私が聞き出そうとしなければきっと言わなかった。
だけど、そうはならなかった。
全部、“熱のせい”で納まるのかもしれない。でも、それだけじゃないと思うのは、私のただの勘だ。
本人に訊けば早い話だろう。なのに訊かなかったのは、今訊いたところで、彼女がうまく説明できるとは思えなかったから。というのは、たぶん建前。
本当は、あの状態の彼女が話す言葉を受け切って、且つ彼女に返す言葉を見つける自信が無かったせい。

(自信が無い、か・・・)

まさにそのままの顔を鏡に映した自分を見て、自嘲気味に笑った。
こんなに弱気な自分が居たのだと、この年になって初めて知ることになるなんて。
気が付くと、桶からお湯が溢れだしていた。
それを緩慢な動きで止め、適度に量を減らして新しいタオルを掛ける。
いくら考えても、答えが見つかるわけもない。
とにかく今は、風邪を治してもらって“いつもの彼女”に戻ってもらわないと。話はそれから。
これ以上彼女の一挙一動に揺れないように、しっかりと気持ちを切り替えて部屋に戻ると。

「あっ、せんせ・・・っ」

―――揺れない、ように。

「あの、汗、掻いた・・・?から、着替えようと思って、でも、これしかなくてっ・・・」

私は、そんなにこの場を留守にしただろうか。
今度はどんな変化が訪れたのか、振り返って私を確認した彼女は、悪さが見つかった子供のようによく分からない弁解を始めた。
しかし、その弁解のほとんどを、私は聞いてあげることができなかった。
当然だ。目の前に、肌蹴かけた浴衣を着た恋人が居るのだから。目を奪われない方がおかしい。
なんとか桶を落とさなかったのは、同時に、彼女の不器用さでは浴衣の帯もきちんと締められないのかと冷静に呆れている自分が存在したおかげだ。

「だから、その、別に・・・、わたしは・・・」
「そう。だけど、それだけだと寒くない?」

彼女の弁解が途切れたところで、話も聞いていないが、いい意味で“適当”な言葉を返した。
赤い胸元、合わせ目から覗く脚、それらにこれ以上意識を侵されないように、視界から外しながら布団の脇に桶を置く。
一瞬でも気を緩めたら、“養護教諭”としての自分が“久保葉月”に引き摺り下ろされてしまいそう。
こんな状況になるなら、徒に抱き締めたりするんじゃなかった。
極めて新しい記憶は、まだ身体にも残ったままで。すぐ叶う欲に、手を伸ばしたくなる。

「よかったら、部屋まであなたの着替え取りに行くけど?」

その提案は、半分以上が自分の為だ。
外の刺すような空気に目を覚まさなければと思ったけれど、彼女は体の前で思い切り両手を振った。

「い、いいよっ、わざわざ悪いよっ。それにっ、みんなの荷物もあるから、勝手に部屋開けない方がいいと、思うし・・・」
「・・・えぇ、そうね」

もっともなことを彼女に言われてしまい、もうどちらが平常でないのかも分からなくなってくる。
どうにも自力でこの場を凌がなくてはいけなくなり、一層神経を内側に向けて、隙という隙を埋めた。

「なら、早く身体を拭いて温かくしないといけないわね」

突っ立ったままの彼女に座るよう促して、足まで布団を掛ける。
滴ってしまわないようにしっかりタオルを絞って、彼女の方に身体を向けた。

「浴衣、下ろすわよ?」

背中を拭くために、元からずり落ちかけていた浴衣を肩から下ろすと、上半身が晒された彼女が恥ずかしげに袖で前を隠す。
その姿はとても“らしく”て、ひどくホッとした。
そのおかげか、猫背気味の肩に手を添えて優しく背中にタオルを滑らせると共に、いつもの調子で口が開いた。

「あなた、また下着付けないで寝たわね」
「だって・・・、寝るときブラ邪魔なんだもん」
「こんな行事のときぐらいは、せめてしておきなさい。誰かに見られちゃうわよ?」
「だっ、誰にも見られないよっ、ばかっ」
「現に私に見られてるけど?」

意地悪くそう言うと、彼女は布団に覆われた足を曲げて体を丸めた。

「先生は、いいんだもん」
「看病してるのが私じゃなかったらって話よ」
「・・・、先生じゃなかったら、こんなことさせない」

背中を拭く手が止まる。
言葉そのものに反応したわけじゃない。
聞き慣れた、不貞腐れたような唇を尖らせた口調の中に、ぽつりと見慣れない感情があった気がして。
また、"知らないもの"に乱されてしまう。

「先生は、私じゃなくても、他の人がこんな風になっても、同じことするの?」

布団に視線を落したままの声が微かに震えていることに気付く洞察力を持っていたことは、果たして幸運なのだろうか。
だったら、その震えを止められる力も与えてくれたらよかったのに。
気付いてあげられても、止められなかったら、何の意味もない。
何が彼女をこんなに不安にさせているのか。欠片も分かってあげられない私は、それに触れることがまだ怖くて。
だから、今はただ、彼女が欲しがる言葉をあげることしかできない。

「しないわ、あなたにしか」

この答えは、確かに彼女が求めていると思ったから出た言葉だけれど、決して嘘ではなかった。
それを証明するかのように、その声は、本当に自分が発したものかと疑ってしまいそうな程に穏やかで。
これで少しは彼女を安心させられただろうかと私が探ろうとするよりも、彼女が私に身を預ける方が早かった。

「じゃぁ、もっと教えて・・・私にしかしないこと」
「   」

何を言わんとしているのか、一呼吸の時間を要して理解した途端、驚きに目が見開いた。
落ち着け、と即座に自分に言い聞かせる。落ち着いて、一つ一つをきちんと確認しなくては。
彼女自身がその言葉の意味を理解していない可能性だってあるのだから。

「一応訊くけど、どう受け取られるか分かってて言ってるの?」
「うん、わかってる」
「今がどういう状況かも?」
「修学旅行中で、今はみんな出かけてて。この部屋には、私と先生しか居ない」
「・・・・・・」

熱に浮かされているわけではないとでも言いたげに、彼女はしっかりと答えた。
その態度に、気付かされる。
ついさっきまで、自分で“熱のせい”にしようとしなかったのに、今この時、私はその答えで彼女を諭そうとしていたのだ。
自分のことすら把握しきれなくなっていることに、頭を抱えたくなった。
彼女は私の思考を分かっててあんな言い方をしたのだろうか。まさか、そんなことが。彼女に先回りをされるなんて。
バレンタインの日を思い出す。彼女に主導権を握られ、困惑のまま私は何もできなかった。
あのときのように、いっそすべて諦めてこの異常の嵐に流された方が楽なんじゃないかという囁きが頭の隅を掠めたせいだろう。
強固にしたはずの防壁に生まれた、その僅かな隙を狙ったように彼女がこちらを見上げ。

「お願い、葉月さん・・・して・・・っ?」

潤んだ瞳でそう言った瞬間、“久保葉月”によって“養護教諭”が地面に叩きつけられた。


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2010年12月18日 | 保健室シリーズ | コメント 0件 | トラックバック 0件 | トップ

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